日本の大手企業が、カーボンニュートラル目標の達成に向けて、AIを活用した温室効果ガス排出量管理システムの導入を加速させている。経済産業省の調査によると、2025年10月時点で、東証プライム市場上場企業の約65%が何らかのAIベースの排出量管理ツールを導入または導入を検討していることが明らかになった。
大手総合商社の三菱商事は、サプライチェーン全体の排出量を可視化するAIシステムを本格稼働させた。このシステムは、取引先企業から提供されるデータと、衛星画像や気象データなどを組み合わせて、リアルタイムで排出量を推定する機能を備えている。同社の担当者は「従来は年次での集計が主流だったが、AIの活用により月次、さらには週次での排出量把握が可能になり、迅速な対策が取れるようになった」と述べた。
製造業でもAI導入が進んでいる。トヨタ自動車は、生産工程における電力消費を最適化するAIシステムを全世界の工場に展開開始した。このシステムは、過去の生産データと気象予測を分析し、再生可能エネルギーの利用を最大化するよう生産スケジュールを自動調整する。同社によると、このシステムの導入により、工場あたりの年間CO2排出量を平均15%削減できる見込みだという。
金融セクターでもAI活用が広がっている。三井住友フィナンシャルグループは、融資先企業の気候変動リスクを評価するAIモデルを開発し、グリーンファイナンスの意思決定に活用している。このモデルは、企業の排出量データ、業種特性、気候変動シナリオなどを総合的に分析し、長期的な環境リスクと投資機会を評価する。
IT企業も排出量管理ソリューションの提供を強化している。NTTデータは、企業向けにSaaS型の排出量管理プラットフォームを提供開始した。このプラットフォームは、Scope1から3までの排出量を自動計算し、国際的な開示基準に準拠したレポートを生成する機能を備えている。
一方、専門家は、AIシステムの導入だけでなく、データの品質と透明性の確保が重要だと指摘している。環境省の気候変動アドバイザーは「AIの精度は入力データの質に大きく依存する。企業は、サプライチェーン全体での正確なデータ収集体制の構築に注力する必要がある」と述べた。
政府は、こうした企業の取り組みを支援するため、AI活用による排出量削減効果を定量化する手法の標準化を進めている。また、中小企業向けの導入支援制度も拡充し、社会全体でのカーボンニュートラル達成を後押しする方針だ。