欧州委員会は12日、欧州グリーンディールの再生可能エネルギー目標を上方修正する方針を発表した。現行の2030年までに最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を42.5%とする目標を、45%以上に引き上げる。この改定は、エネルギー安全保障の強化と気候変動対策の加速を両立させることを目的としている。
欧州委員会のエネルギー担当委員は記者会見で、「ロシアのウクライナ侵攻以降、欧州のエネルギー政策は大きな転換点を迎えた。化石燃料への依存を減らし、クリーンエネルギーへの移行を加速させることが、経済安全保障と気候目標達成の両面で不可欠だ」と述べた。
目標達成に向けて、欧州委員会は再生可能エネルギープロジェクトの許認可手続きの簡素化、送電網インフラへの投資拡大、エネルギー貯蔵技術の開発支援などの施策を打ち出した。特に、洋上風力発電の導入拡大が重点項目とされ、2030年までに洋上風力の設備容量を現在の約3倍となる111GWに引き上げる計画だ。
太陽光発電でも大幅な拡大が見込まれている。欧州太陽光産業協会によると、2024年のEU域内での太陽光発電の新規導入量は過去最高の56GWに達した。2025年もこの勢いが続いており、産業用太陽光発電への投資が特に活発だ。ドイツ、スペイン、イタリアが導入をリードしており、東欧諸国でも急速に拡大している。
一方、目標達成には課題も多い。風力・太陽光発電の急速な導入に送電網の整備が追いついておらず、電力の需給バランス調整が困難になるケースが増えている。また、再生可能エネルギー設備の製造が中国に大きく依存している現状も、供給リスクとして指摘されている。
こうした課題に対応するため、EU は国内の再生可能エネルギー製造能力の強化を推進している。欧州委員会は「ネットゼロ産業法」を通じて、太陽光パネルや風力タービンなどの重要技術の域内生産を支援する。目標として、2030年までに EU が必要とする再生可能エネルギー技術の少なくとも40%を域内で生産することを掲げている。
エネルギー貯蔵技術の開発も重要課題だ。変動性の高い再生可能エネルギーの大量導入には、効率的なエネルギー貯蔵システムが不可欠となる。欧州は、バッテリー技術だけでなく、水素エネルギーシステムの開発にも注力している。ドイツやオランダでは、余剰電力を水素に変換して貯蔵し、需要が高まった際に発電に利用する「パワー・ツー・ガス」プロジェクトが進行中だ。
産業界からは、目標達成のペースが速すぎるとの懸念も出ている。エネルギー集約型産業の団体は「急速な再生可能エネルギーへの移行は、短期的には電力コストの上昇を招く可能性がある。企業の国際競争力を損なわないよう、移行期間中の支援策が必要だ」と訴えている。
欧州委員会は、こうした懸念に配慮しつつ、長期的には再生可能エネルギーの拡大がエネルギーコストの安定化につながるとの見解を示している。改定案は今後、欧州議会と加盟国による審議を経て、正式に採択される予定だ。